楽器演奏経験のない方でも容易に演奏できる方法について
1. はじめに
1. 1 概要
本研究室では,楽器演奏経験の無い方でも演奏できる楽譜と演奏システムを研究してきました.
その結果を基に,一般の家庭でも簡単に演奏できる方法をご紹介します.
1.2 背景
音楽的記憶は高齢になっても比較的よく保たれることが知られており,介護施設等で音楽療法が広く行われています.
一般には,音楽を聴いたり,歌ったり,あるいはリズム楽器で演奏に参加したり,等が行われています.
一方で,楽器を使って旋律を奏でることは,練習が必要であり,若い頃に演奏の経験がないと難しいと思われています.
1.3 目的
楽譜と楽器を工夫することにより,高齢者の方および介護者の方に,気軽に楽器を演奏して頂くことができます.
演奏の目的は,以下の2点です.
・高齢者の方に弾いて頂き,生活の質が向上することを期待しています.
・介護者の方に弾いて頂き,高齢者の方とのコミュニケーションをとって頂き,介護のストレスが少しでも減ることを期待しています.
2. 楽譜
五線譜は,慣れると便利な楽譜ですが,音符を理解して楽器を演奏するには練習が必要です.
しかし,楽譜が数字(1,2,3,...)や音名(ド,レ,ミ,...)で書かれていて,同じ数字や音名が鍵盤楽器に貼ってあれば,演奏は容易になります.
ここでは,五線譜に代わる楽譜として数字譜をご紹介します.
(1) 音の高さの表現
{ド レ ミ ファ ソ ラ シ}に対応し,
{1 2 3 4 5 6 7}を割り当て,これらの数字を並べて楽譜とします.
例を以下に示します.
中央ドは1で表し,その1オクターブ上のドには1の上に・が1つ付き,2オクターブ上のドには1の上に・が2つ付きます(以下同様).
また,中央ドの1オクターブ下のドには1の下に・が1つ付き,2オクターブ下のドには1の下に・が2つ付きます(以下同様).
2〜7の音についても同様です.
数字譜は日本伝統音楽では江戸時代から一般的に使われています.また,大正時代に発明された大正琴も数字譜を使います.
大正琴では音の高さの表現は,ここで説明した方法と同じです*.
* 大正琴譜では,半音上の音を表すには五線譜と同様に♯を付け,半音下の音には♭を付けますが,本研究室の表記では,半音上の音には+を付け,半音下の音には−を付けます.
(2) 音の長さの表現
先の例の楽譜では,音の長さを楽譜上の長さで表しています.上の図に示したように,四分音符は八分音符の2倍の長さになっています.
大正琴譜では音の長さの表現には,記号を用います.大正琴譜については解説が他にあるので,ここでは説明しません.
本研究室で作成した楽譜のPDFをダウンロードできます.
2019年度公開講座で使用した楽譜 この楽譜は,2017年・2018年の公開講座で使用した楽譜を改訂したものです.
著作権が消滅した楽曲を数字譜にしています.
2019年度出張講座で使用した楽譜 この楽譜は,公開講座で使用した楽譜の一部を大きく表示したもので,介護施設での出張講座で使用しました.
これらの楽譜はExcelで作りました.本研究室では,MusicXMLで記述された楽譜情報から,数字譜を作成して表示するシステムを開発中です.
システムを公開できるようになるには少し時間がかかると思います.
3. 楽器
鍵盤楽器の鍵盤の上に,数字のテープを貼れば,数字譜を見ながら簡単に演奏できます.市販の電子キーボードで安価なものがありますので,そちらをお勧めします.
先に紹介した数字譜を見ながら,演奏ができます.
また,大正琴譜は,音の高さの表現が同じなので(ドレミ...を123...で表現),音の長さの記号に慣れれば,使うことができます.
市販の電子キーボードに数字のテープを貼り,市販の大正琴譜を使用すれば,色々な曲を弾くことができます.
本研究室では,タブレットPC上で動く演奏システムを開発しています.鍵盤上に数字を表示する他,音名や色を切り替えて表示することができます.
しかし,Windowsタブレットで反応速度が10msのものが必要であり,一般的に使って頂くには難しいと思います.
4. 介護施設での音楽演奏の実施
本研究室では,2017年から,どのような楽譜と演奏システムが使いやすいかについて実験を行い,公開講座では一般の方からもご意見を伺い,検討を進めてまいりました.
その結果に基づき,2019年度は,介護施設にて出張講座を実施させて頂きました.
その時にご説明した資料がありますので,ご興味がございましたらご覧ください.介護施設への説明資料